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「黒ワニとハーモニカ」別館 バンダイがマーズジャケットをプラモにしてくれるのを待つ日記

ロボットアニメをわりと好むヲタによるブログ。 たまに少しだけ防衛問題について喋ったりもします。 あとパワードレッド・ドレッドノートHのプラモ化と、コトブキヤが有澤の雷電をプラモにしてくれるのも待ってます。

「健康帝国ナチス」 ロバート・N・プロクター/宮崎尊

ナチス政権下におけるドイツの厚生政策について述べた本。
 
「国民の健康に関するナチスの業績に焦点を当てた本書の目的は、「善は悪からも生じうる」といったような陳腐な結論をでっち上げることではないし、ナチス・ドイツの名誉を復権させることでもない。すでに充分に立証されているナチスの残虐行為から目をそらそうとしているのでもないし、ジェームズ・ワトスンが(西ドイツのバイオテクノロジー研究を軌道に乗せるために)主張したように、「ヒトラーは過去のものとする」ことが目的でもない。
 本書の目的は、ドイツの科学と医学のナチ化は、一般に思われているほど単純なものではないと示すことである。ナチス・ドイツの科学史は強制断種の歴史であると同時に薬草両方の歴史であり、大量虐殺による「淘汰」の歴史であると同時に公共の場所での禁煙の歴史でもある。メンゲレの犯罪は忘れられないが、と同時にダッハウの囚人に有機農法のハチミツを作らせていたことや親衛隊がヨーロッパのミネラルウォーターを買い占めていたことも忘れてはならないと思う。
残虐と凡庸と、この両方がカギである」
 
 これは本書の最後の章の全文引用でであるが、筆者の主張はこれにすべてが集約されていると言っていい。
「実はナチも悪いことばかりではない」でも「実はナチはやっぱり大悪党」でもなく、まさに「両方がカギ」なのである。
 
 ナチスと健康という単語を結びつけるのはダッハウ・ビルケナウという固有名詞や「死の天使」と呼ばれた男を知っている人間にとってはあまり容易ではないかもしれないが、「金髪碧眼の完全なるアーリア人」による「千年王国」建設がナチズムの目指した到達点であることを考えれば両者がイコールによって結合するのもおわかりいただけるのではないかと思う。
 
 従って「完全なるアーリア人」を追い求めるがゆえにナチスは禁煙に熱心であり、ガン対策に力が注がれ、食生活における着色料の使用を制限するといったエコ政策を推進することになる。
1920年代の終わりにはウラニウム採掘労働者は肺ガンの労災補償を受けており39年には因果関係が断定されたのに対し、アメリカで放射線被曝者補償条例が可決されたのは1991年。
この2005年、日本では石綿(アスペスト)問題が持ち上がっているがそこから遡ること62年、1943年にはナチス政府はアスペストに起因する中皮腫と肺ガンを労災と認定して補償対象としている。
また喫煙と肺ガンの因果関係を最初に証明したのもナチ政権下で「非アーリア人は雇用しない」と定められていた研究所(1941年のホルスト・ヴェストナーによる論文や1943年のエーバーハルト・シャイラー/エーリヒ・シューニガー論文など)。
 
 これで終わればそれこそ「ナチズムも悪いばかりではない」で済むのだが、しかしことはナチズムである。
果たしてこの健康志向は、軍需の急増と高い生産性を持つ労働者が求められる内外情勢もあって
 
病気を排除しよう

工場から病人を排除しよう

病院から病人を排除しよう

病人をこの世から排除しよう
 
という非人道的な(もっとも、個人的には"いかにもナチズム的な"といった方が正確なのではないかと考えるが)恐るべき論理的発展を遂げる。
アウシュヴィッツのI・G・ファルゲン工場の例をみると、入院者は全労働者の5%と定められておりこれを越えると医師による選別の後にビルケナウを潜らされ、ある熱烈な反タバコ派学者は同時に地域の病院をまわっては精神障害患者を殺すよう医師に強く勧める"安楽死"推進者の先鋒であり、また高質の労働者を求める姿勢の裏返しとしての「無用のごくつぶし駆除」のため、「望ましからざる人種の繁殖防止」にX線を使うのはどうかという案が提出されることもあった。
 
 上記の引用文中にもあるが、あのダッハウ強制収容所は世界有数のハーブやスパイスの栽培所も兼ねていたという一見不可解で、まことに奇怪なねじれとでも呼ぶべき事実が「ナチズムの厚生政策」をもっとも端的に表しているものではないだろうか。
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コメント

 興味深く読ませてもらいました。TFさんが『健康帝国ナチス』を読んで感じた知的興奮が伝わってくるようです。これほど長文の書評は初めてですよね。自分の読書メモを短文化しようとしているのとは対照的……(汗)
 ナチスの政策を巡るパラドックスは調べると色々と出てくるみたいですね。アメリカ的生活様式を退廃と断じたナチス政権下でむしろドイツの大衆消費社会が本格化したとか。

 余談ですがようやく『戦後日本の防衛と政治』を買いました。何せ定価がべらぼうに高いため割引があるまで踏ん切りがつきませんでした。休学が終わるまでには読みたいなあ。

  • 2005/10/26(水) 19:37:04 |
  • URL |
  • だい #wbvimiA2
  • [ 編集 ]

いや、ホント面白かったですよこの本。
こんなにそそられたのは久しぶりです。不条理なパラドックスの嵐で興味が尽きません。
事実は小説より奇なりとはナチズムを表すためにある言葉かと思えるくらい。
 
>戦後日本の防衛と政治
あの内容ならもう1万上積みされても買う価値ありますよ。いやホント。

  • 2005/10/27(木) 20:14:51 |
  • URL |
  • TF #-
  • [ 編集 ]

推薦図書(笑)

>『戦後日本の防衛と政治』

 買った帰りの電車の中で最初の数ページに目を通してみましたが、安全保障の中でも軍事機構を含む防衛政策にフォーカスする、あるいは「自主と同盟」を巡る路線選択が収斂していく過程を描写する、という旨の記述を見てこりゃ相当期待できそうだと思いましたね。卒論の資料として絶対に欠かせないな。

 そんで『戦後日本~』購入→「そういや田中明彦『安全保障』も読み返さなきゃな」という流れで思い出したんですが、戦後日本の政治外交史関係でTFさんに紹介しようと思っていた本を2冊。

●北岡伸一『自民党』(読売新聞社)
●河野康子『戦後と高度成長の終焉』(講談社)

 両方ともシリーズ本ですが、北岡本は『安全保障』と同じ読売の「20世紀の日本」のうちの1冊です。自民党の歴史が党内力学の視点からコンパクトかつダイナミックに描かれていて、ぐいぐい引き込まれること請け合い。ただ絶版なんですよね。自分が買った時はまだAmazonに在庫があったんですが……。
 河野本は自分もまだ未購入なんですが、講談社の「日本の歴史」シリーズの中で戦後の政党政治を扱った通史書です。北岡本と併せて、戦後の防衛政策を形づくった政治の力学を知るのにいいかな、と。(つーか自分も読まんとナー。)

  • 2005/10/28(金) 17:57:36 |
  • URL |
  • だい #wbvimiA2
  • [ 編集 ]

政軍関係、自主防衛/日米同盟という関係云々が最大の焦点ですね>戦後日本の防衛と政治
とくに文「官」統制が固定化されていく過程はなかなか本になったりしないので。
 
>推薦図書
うぃ、メモしときます。

  • 2005/10/28(金) 21:59:28 |
  • URL |
  • TF #-
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