「黒ワニとハーモニカ」別館 バンダイがマーズジャケットをプラモにしてくれるのを待つ日記

ロボットアニメをわりと好むヲタによるブログ。 たまに少しだけ防衛問題について喋ったりもします。 あとパワードレッド・ドレッドノートHのプラモ化と、コトブキヤが有澤の雷電をプラモにしてくれるのも待ってます。

毛布の上からでも感じるような、肌を切る鋭さすら覚える冷気を感じて彼女――ビューリングは目を覚ました。
ゆっくりと上体を起こし、しばし覚醒のために頭を軽く振ってから時計を見やる。
義勇兵中隊に割り当てられている部屋の時計――粗末な木の板に、錆びて曲がった釘で斜めに打ち付けられているおかげであからさまに傾いでいる――は、まだ
午前6時を回っていない。
何気なく周囲を見やる――何もかもが急ごしらえのこの基地ではウイッチにして士官ですら個室が割り当てられないため、全員が同じひとつの部屋で寝泊りしている。
無論、通常ならありえない待遇なのだが、ネウロイとの戦いが激化する一方の現状ではやむをえないところだろうし、何よりビューリングにとってはどうでもいいことではある。
あたりを見渡す。
キャサリンは毛布だけを掴んで、だらしなくベッドからずり落ちそうになりつつ、むしろ逆に器用さすら感じるようなありさまでかろうじてベッドにしがみついている。
ウルスラはまるで定規で図りでもしたかのように、ベッドの淵と平行に気をつけの姿勢のまま目を閉じている。
トモコは――ハルカにしがみつかれて露骨に寝苦しそうにしている。それでも蹴り落とそうなどとしないのは人がいいのか、単に押しが弱いのかどちらかは分かりかねたが。
そして残る元中隊長のエルマのベッドはといえは、とくにどうということもない。静かに寝ている。というより他にない。
「……ふむ」
ビューリングは毛布をどかして立ち上がった。
きっかり6時と決めているわけではないが、このくらいの起床ラッパの時間より早く起きて、使い魔のダックスフンドと共に軽く散歩するのは彼女の日課にしてちょっとした楽しみのひとつだった。
ごそごそとベッドの下に手をやり、犬の腹の下を撫でる。
はふ、と息を吐く音が返ってきた――別に自分に似たということもないはずだが、この使い魔のダックスフンドは犬のくせにあまり鳴かない。
なんにせよ、この時間に吼えられるのはさすがに仲間に迷惑なのでその癖がありがたかった。
ビューリングは使い魔が起きていることを確認すると、ベッド脇に置いてある樽――個人用ロッカーとライトスタンドを同時に兼ねているものだ――の蓋を開き、冬季用の分厚い外套を取り出して羽織った後、物音を立てないよう静かに部屋の外へと出た。



子供が食べる類の駄菓子を砕くような、軽いさくさくという音とともに、使い魔を連れて雪の上を歩く――傍目には愛犬と散歩しているようにしか見えないだろうが、まあ大差ないといえば大差ない――。
このあたり一帯は基地の軍人が忙しくそこらじゅうを歩き回って足跡だらけにしているはずだが、一晩雪が降っただけでその跡もすっかり消え去ってしまっている。
「…………」
思わず息を吐き出し、感心し――その息の白さにもう一度感心する。
ブリタニアも寒い国ではあるが、防寒装備で固めているにも関わらず立っているだけで切り裂かれるような冷気を感じるほど冷え込むことはないし、ましてやここまで雪が降り積もることなどない。
とりあえず誰もいない外に出たところで一服しようと、外套――合成皮革製で、どうにも手触りが固いものの防寒性は折り紙つきだ――の中に手をやり、内ポケットの煙草を取り出す。
風もないため、取り出した煙草は簡単に火が点いた。大きく吸い込んで、ゆっくりと吐き出す。ここなら誰も喫煙に眉を潜める者はいない。
鋭く乾いた冷たい空気の中に、湿った紫煙が吐き出され溶け込み、それとともに思考もゆるやかにほどけていく。
実のところブリタニアにいた頃吸っていた銘柄とは違うものを吸っているのだが、そのあたりにこだわりのないビューリングとしては要するに同じ煙草でしかない。
誰にも文句を言われないで煙草を吸うにはこうするしかない――が、別にそれが苦痛というわけでもない。
鋭い冷気をむしろ心地よく感じながら、その最中に起床ラッパの甲高く、そして間抜け――だと彼女はずっと思っている――な音が響く。
「……そろそろ朝食か」
煙草を捨て、ブーツで踏み潰す。
まさか延焼の危険などあるはずもない――が、そのへんは煙草のみのマナーだろう。
火が消えたのを確認して、ビューリングはその場を立ち去った。


食事時といえばいつどんなときでも混雑するものだが、このスオムスのにわか作りの基地でもそれは例外でない。
カウンター――といっても、並べた空き樽の上にひびの入った木の板を敷いただけの粗末なものをそう呼んでいるだけなのだが――の上に食事がずらりと並び、列を成してそれを受け取るのを待っている。
特にどうということもなく、誰と会話するわけでもなく――ただでさえウィッチは高嶺の花だが、わけてもビューリングはその偏屈ぶりが早々に知れ渡ったおかげであえて声をかける者もいない――それを受け取る。
と、列を脱したあたりで何気なく後ろを振り返ると、エルマが列に入ろうとしてはそのつど弾き出されて――目に見えて――困り果てていた。
それを見てビューリングは適当に自分のぶんの食事をそのあたりのテーブルに置くと、もう一度列に並ぶ。
と、当番兵が目ざとくそれを見つけ、
「ああ、中尉、さすがにウイッチといえど食事の二度取りは……」
当たり前といえば当たり前の話を向けてくる当番兵に、無言でウィルマのほうに視線を向ける。
彼もそれだけで納得したようだった。
「……ご苦労様です」
「こんなことは面倒のうちにも入らん」

なんとかエルマも自分の食事を得て、義勇兵中隊が全員集合する。
いつの間にかウルスラはその場に座っていた。目線だけをこちらに向けてくる。挨拶のつもりなのだろう。
ビューリングも視線だけで返し、ものぐさな朝の挨拶を終える。
実のところビューリングとしては適当にそのへんのテーブルに自分の分の食事を放り出したつもりでいたのだが、気がつくと他の中隊員と同じテーブルで、隊員が全員揃っていた。
「そういえば、わたしたち、最初のうちはみんなバラバラにご飯食べてたのに、気がついたらなんかみんな一緒に食べてるね」
言われてみればそうだった。ような気もする。が、まあ、どうでもいいといえばどうでもいい。
「それにしても、貧相なモーニングねー。カリカリのベーコンとミルクが恋しいねー」
実際まあ貧相だと言われればそれを否定する材料もないように思えた――薄めた豆のスープと、やたらに硬い黒パン。それとウイッチのいについてくる
ウインナーが一本だけ。
「ス、スオムス人として義勇兵としてわざわざこの国に来ていただいたのにこんな食事しか出せなくてごめんなさい……」
別に彼女が悪いとも思えなかったが、なにやらひどくエルマが恐縮している。
「まあまあ、何もあなたのせいじゃないでしょう。前線なんてこんなものよ。キャサリンもあんまり文句言うのはやめなさい」
「分かってるねー。別にエルマに文句が言いたいわけじゃないねー」
エルマはすみません、ともう一度謝ると、
「で、でも、最初はみんなばらばらだったのに、こうやってみんなで一緒に食事なんか取ったりして嘘みたいです」
満面の笑みを浮かべる。
「それもそうねー」
「確かにそうよね」
「………………」
ビューリングとしてはそのあたりはどうでもよかったのだが、馬鹿正直にそんなことを言って、そのエルマの笑顔に――そして中隊の和やかな雰囲気にあえて水を
差す理由もそれはそれで思いつかなかったので、結局最後まで黙って食べた。


夜は決まって基地を抜け出し、町のバーでグラスを呷るのがビューリングの習慣だった。
最初のうちはトモコが咎めてきたし、エルマも困った顔でなんと言ったらいいのか複雑な表情を浮かべていたのを覚えている。
だが、それも一時のことであくまでも自分の慣習を貫こうとするビューリングに結局誰も何も言わなくなるまでに大した時間はかからなかった。
そして、こうして今でも一人、仲間を尻目に独りでバーにいる。
今更そのことを後ろめたいと感じる感性はとうの昔に失ってしまったし、たとえ仲間と呼ぶに足る人間が出来たとしてもこの時間だけは譲るつもりはない。彼女はそう考えている。
だというのに――
「あ、ビューリング。ここにいたねー」
金髪を揺らしてずかずかと歩いてくる見知った顔がひとつ。キャサリンだった。
いつものような、底の抜けた笑顔で寄ってくる。
マスターが意味ありげな目線を送ってくる。
顔なじみというほど長い付き合いではないが、それでもビューリングが決して誰かと酒を酌み交わす人間でないことは知っていたらしく、露骨にキャサリンに対して渋い表情を向けている。
そのままマスターに任せてキャサリンを追い払ってしまおう、とも思ったが――ふと思いなおす。
わざわざ自分を(おそらく)あちこち探し回り、一緒に一杯やらないかと笑顔で誘ってくるキャサリンの感情を無碍に一蹴して済ませるのも後味が悪くなりそうだった。
結局スコッチの入ったグラスを傾けたまま、無言で隣の椅子をひいて彼女に勧める。
その様子を見ていたマスターが、
「……中尉が誰かと飲むなんて、珍しいですね」
そんなことを言ってくるが、それにはあえて答えず無言でスコッチを喉に流し込んだ。
キャサリンはそれを見ながら
「ひとりで呑む酒なんて美味しくないねー。酒はみんなと楽しく飲むものねー」
「わたしは一人で静かに味を楽しむのが好きだ」
それだけ言って黙り込む。が、
「そこがビューリングらしいところねー」
キャサリンはそう言うとさっさと彼女の隣の席に座り、
「ウイスキーあるね?できればテネシー・ウイスキーがいいねー」
と、自分の分を注文し始めた。
時節柄、店内の調度品はせいぜいないよりマシといった程度のもので、酒の質も本国の味より悪い。マスターこそ老年の穏やかな男性だが、それでもこのバーを評するならば場末の安酒場というのが正直なところだろう。
だが、本国の「本物の」場末の酒場と違い、店内が明るく、健康的な活気があるのは大きな違いではある。前線で戦う兵隊たちも足しげく訪れる場所であるゆえなのだろうか。
笑顔でグラスを向けてくるキャサリンに、黙ったまま自分もグラスを合わせて軽く乾杯する。
ちん、という甲高くも軽い音が響いた。
「はー。ビューリングは酒の趣味が辛気くさいねー。たまにはみんないっしょにわっと飲むのも悪くないね」
「……積極的に酒を飲むのはわたしとお前くらいで、トモコ達はあまり飲まないだろう」
「まあそう言われちゃおしまいねー」
相変わらずにこにことしている。
「それにしても」
軽く背筋を伸ばして天井を見上げ、照明の明かりから軽く手で目を守りながら
「こうやってると故郷のテキサスを思い出すねー」
「故郷が懐かしいのか?」
「そりゃ、当たり前ね。ビューリングは懐かしくないね?」
「どうだかな……まあ、嫌いな街ではなかったが」
「戦争が終わったら、みんな故郷に帰るね」
突然そんな話を始めたキャサリンだが、
「まあ、そうなるだろうな」
あえて遮らずに続きを促す。
「そのときはビューリングも手紙くらいは書いてほしいねー」
「まあ、期待せずに待っていろ」
普段のビューリングならお断りだと言うところだが、その時だけは素直にそう答えた。

基地に戻り、部屋へ入る。と、誰かがいた。
「うう……疲れた……」
ぐったりとベッドに倒れ付しているトモコに、とりあえず声をかける。
「嫌なら嫌だとはっきり言えばいいだろう。
 ついでに言うと同じ部屋では寝られんくらいうるさいのも困りものなんだがな」
そこで彼女はばねでも仕掛けてあったかのようにがばと跳ね上がり、
「そう!そうなのよ!嫌なんだから嫌だってはっきり言えばいいのよ私は!」
「分かってるじゃないか」
「……でも素直に好きですって言ってくる子をむげにあしらうのもなんか悪い気がするのよね……」
「ふうむ」
とりあえず、唸っておく。正直そのへんはビューリングには経験がなく、まったくよくわからない感覚だったが。
「まあ、わたしとしては……静かにやってくれれば別になんでもいい」
「そ、そんな薄情な!」
「わたしは昔から薄情者として有名だが」
「そこでそういうことを真顔で言うのがビューリングらしいとこよね……ううっ」
ふん、とビューリングは軽く息をついて笑い
「分かってるじゃないか」
結局、その日はネウロイは現れなかった――まあ、戦争というのは365日24時間不眠不休でひたすら続くものではない、という程度のことなのだろうが、
ともあれ、その日のスオムスの基地は平和だった。
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